さいたま 土地への対抗
7月初めにロシアでサミットがあったが、今度は「グローバル・インパランサス」の表現は前面に出されることはなく、非常に小さく扱われただけであった。
5月の初めには、あれだけ大きく打ち出しておきながら、その2カ月後の7月にはもう小さな話にされてしまったのである。
9月にもG7があり、グローバル・インパランサスの話も一応は出てきたが、申しわけ程度のものであった。
マーケットの参加者が当局の退却に気づかないわけがない。
「もうドルの話はなくなった」と解釈されて、ドルはまた上がっていった。
その結果、米国の貿易赤字は拡大を続けたのである。
結局、ドル誘導を2回やってみたが、2回とも、ちょっとしたことでアメリカ当局が怖じ気づいて、ドルは徹底されなかったのである。
サブプライム問題が噴出する前までのドルは、アメリカの好調な経済と、それなりに高い金利という2つがプラス要因として働いていた。
今回のサブプライム問題を受け、アメリカは景気減速に陥り、金利を大幅に下げた。
ということは、それまで海外の投資家がドルを買っていた理由が2っともなくなってしまったということになる。
そのため、これまでのドル高要因が2っともなくなって、ドル要因である巨額な貿易赤字だけが残り、それが昨今のドルにつながっているのである。
今回のドルは前述の要因に加え、バーナンキFRB議長が自らドルに賭けているという、これまで見られなかったまったく新しい要因がある。
前章で述べたように、パIナンキは大恐慌の専門家を自負し、その3O年の学者生活の最大の成果は、当時のニューヨーク連銀が19291=2年の2年間に大幅な金融緩和をやっていれば大恐慌は避けられたはずだというものである。
今、彼は当時のニューヨーク連銀と同じ立場におり、彼は自身の信条に従って連銀の長い歴史のなかで最高速の利下げを実施する一方で大量の資金供給を行った。
彼の理論に反し住宅価格も経済もまったく反応していない。
その理由は前章で説明したとおりであるが、そうなると彼が30年間主張していたことは間違っていたことになる。
その焦りのなかで一つだけバーナンキの金融緩和に理論通り反応している部分があり、それがドルなのである。
しかも昨今のドルで米国の輸出はかなり伸びている。
実際に米国の純つまり今のパ輸出はこの1年間、十数年ぶりにGDP成長率のプラス要因になったのである。
バーナンキの心情は、金融緩和は直接的には効かなくてもドルを介して効いているので、とにかくドルとそれがもたらす輸出増でアメリカ経済を支えればよいということだと思われる。
バーナンキは自身の面子にかけてでも、ドルで米国経済を回復させたいのである。
その結果、今のワシントンではバーナンキFRB議長がドルのプラス面を強調し、議員たちがその弊害を指摘するという従来とはまったく逆のパターンが出現した。
通常であれば日本や中国からの輸入で困っている工場を選挙区に持つ議員がドルを要求し、それに対し当局が「強いドル」がインフレ面から見て望ましいという構図になるのに、今回はまったく逆なのである。
これでは内外の投資家がドルを買う理由などなくなってしまう。
今のドルの背景にある。
こうした局面は、2つの意味でH困った事態Hを引き起こした。
一つはアメリカ国内の問題である。
バーナンキFRB議長は景気を良くしたいからドルを歓迎している。
今の局面でドルが下がると、国際商品市況はそれに反比例して上がる。
実際にOPECのヘリル議長(アは石油価格が上昇している最大の理由はドルだと言明している実際に、小麦や大豆あるいはガソリンといった人々の生活を直撃するモノの値段がここにきて急騰している。
その意味で、今のアメリカ経済で、インフレは決して無視できる問題ではない。
インフレはかなり深刻になっていると言うべきであろう。
こうしたインフレを前にして、多くの議員は「1970年代のようなインフレが再び起こるのではないか」と心配している。
コアインフレ(食料品とエネルギーを除く物価上昇率)はそれほどひどくない、という点である。
コアに食品やエネルギーも加えたCPコアインフレよりはるかに伸びは高い。
インフレ率は下がるし、今後アメリカ経済が減速していけば、これらの商品価格が上昇を続ける可能性はさらに下がる。
バーナンキ議長の主張であった。
ドル危機に世界はどう対処すべきか通常の世界ならばバーナンキ議長は正しい。
今回のようにドルに対する信用が根底から揺らいでいる状況ではそうはならない。
ドルになった分、商品市況が上がりアメリカだけはインフレがひどくなりかねないからである。
しかも、O8年の商品市況は落ちつくとしたバーナンキ議長のO8年2月時点の予測は、少なくとも今日(6月)までまったく当たっていない。
2月時点で100ドルだった石油は、6月には一40ドルまで上昇してしまったからだ。
しかもここにきてFOMC(連邦公開市場委員会)の一部からも公にバーナンキのインフレ軽視スタンスに反旗を翻す動きが出てきている。
FOMCのメンバーである一部の地区連銀総裁はあまりにも急速なバーナンキの利下げに反対し、もっとインフレを注視すべきだと言い出しているのである。
ある意味では、バーナンキ議長は運が悪いと言えよう。
もっと早くグリーンスパンたちがドルを徹底して貿易赤字にメスを入れてくれていれば、今ごろバーナンキがこんな問題に直面しなくても済んだはずだからである。
アメリカの貿易赤字が急拡大したのは、クリントンの時代からである。
そこで、クリントン政権も第2期目から貿易赤字を減らそうという動きを見せた。
前任のロバート・ルービンからローレンス・サマーズが財務長官を引き継いだ時、「これから貯蓄を増やし、貿易赤字を減らさなければいけない」とはっきりその目標を打ち出したのである。
彼にもそれはできなかった。
大統領とモニカ・ルインスキーのスキャンダルが飛び出したからである。
この醜聞からくる政治的ダメージを中和するために、とにかく景気を維持することが政権の最優先課題となり、貿易赤字の是正はずっと後回しになってしまったのである。
そこで貿易赤字を減らすチャンスは一回失われてしまった。
ブッシュの一期目は誰もこの問題に触らなかったが、2期日は先述したように、2回試みた。
怖じ気づいて途中でやめてしまった。
そのツケが、今のアメリカの金融政策を非常に難しいものにしているのである。
大きな貿易赤字が残っているなか、景気は悪化し、しかも金利も下がっているとなると、市場がドルを買う理由がなくなってしまう。
ドルになるとアメリカ国内のインフレを押さえ込むことができなくなり、中央銀行としては泥沼状態に眠り込んでしまう。
アメリカ以外の国では、国際商品市況の上昇はアメリカほど深刻ではない。
自国の通貨がドルに対して上がっている国は、国際商品市況の上昇を通貨高で中和できるからであアメリカではそうはいかない。
しかもアメリカではインフレがひどいということになったら、ドルはますます売られてしまう。
以上がアメリカの囲内の問題である。
バーナンキ議長は、アメリカの金利、とくに長期金利がドルにもかかわらず急騰していないことを「海外への資本逃避が起きていない証拠」と見ているフシがある。
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